KELTY.,CANADA. PRICE: $ 60.00 (S) 〜$ 70.00 (L)

 『ケルティ・シェルパ・ドッグ・パック』。ケルティ社製、カナダ。価格:60・00(S)〜70・00(L)ドル。これは犬用のバックパックです。
 ケルティ社はカナダの老舗バックパックメーカー。創始者はディック・ケルティというアメリカ人の大工で、彼は根っからのアウトドアマンでした。1952年に彼はシェラクラブ(サンフランシスコの自然愛護団体)の友人のためにバックパックを自宅のガレージではじめて作りました。そのときディックが作ったバックパックは、軽く強靱なナイロン製パックと背中にフィットするS字カーブのアルミフレームを組み合わせ、ウエストベルトで荷重を分散させる方式を取ったもので、今日のバックパックの原型となったのです(ちなみにその友人はそのケルティのバックパック第一作に24ドル支払ったらそうです)。そのことがきっかけとなり、彼はその年にケルティ・ブランドを立ち上げました。そして60年代後半にはヒッピー文化の象徴であるバックパッカーたちの必需品となり、ケルティはバックパックの代名詞のようなブランドに育っていったのです。
 このドッグ・パックもご多分に漏れずとてもよくできています。色は赤のみ。サイズはS(体重7〜16kg)、M(体重16〜30kg)、L(体重30kg〜)の3サイズ。今では多くのメーカーがドッグ・パックを作っていますが、その中でもこの商品は自らのバックパックのノウハウを生かし、犬の体型や歩行などをよく研究し、細かい部分まで配慮されたデザインと機能が備わっています。まず、犬の体に密着するバッグ内側部分は通気性のよいメッシュのクッション性素材を使用し、固定用ハーネスのベルトのためのジョイントや調整用のプラスチック部品までもクッションでカバーされています。ハーネスとバッグが着脱可能で、これは他のメーカーのものではほとんど見られない機能。またハーネスの上部には取っ手もついていて、それで犬をつかむことができるのです。そして実用的な機能としてついているベルと両サイドのバッグに大きく刺繍された黄色いケルティのロゴと「KELTY K-9」の文字がこの商品のアクセントとなってとてもかわいい。
 話は少し逸れますが、60〜70年代に世界中でバックパッキングが一大ブームになりました。先にも書きましたが、ヒッピー文化が火付け役になったのです。60年代にカウンターカルチャーの申し子として、ヒッピーと呼ばれる若者たちが社会に溢れ、新しい独自の文化を生み出そうとしていました。彼らは既存の文化や政治、社会通念に疑問を持ち、物質主義の象徴的存在の都市型生活に対するアンチテーゼとして、「バック・トゥー・ネイチャー(自然に帰れ)」を叫び、自給自足の自由な社会を目指すムーブメントが起きました。その流れの中で「自分の脚で歩こう」という運動が生まれたのです。そのきっかけとなったのが当時出版された1冊の本。コリン・フレッチャーという作家が書いた『The Complete Walker(『遊歩大全 The Conplete Wlaker 上下巻』初版1968年 山と渓谷社刊/1978年 森林書房刊。ともに絶版)』でした。自分自身バックパッカーでもあった彼の900ページ近くあるとても分厚い本には、バックパッキングの基礎、思想、道具、哲学、健康、食品衛生に至るまで詳細に記述され、今でもバックパッカーのバイブルと呼ばれています(現在原書は4作目『The Conplete Wlaker IV』が出版されています)。この本に触発された若者たちの多くがディック・ケルティが生み出したバックパックを背負い世界へ旅立っていったのだと思います。
 さて一言でバックパッキングといっても、その範囲は広く、ハイキングのような軽装で楽しむものから、国内はもちろんのこと世界中を長期間旅するものまであります。アメリカでは今でも最もポピュラーなアウトドア・レジャーで、犬を連れてバックパッキングを楽しむ人たちがたくさんいます。そのため犬連れバックパッカーのための本もたくさん出版されています。その中の1冊の本によると、犬は自分の体重の3分の1の重さの荷物を運べるそうで、例えば30キロの犬だったら10キロもの荷物を運べるのです。人間に置き換えて考えてみると(60キロの男性で20キロ)、その身体能力の凄さにあらためて驚かされます。荷物の中でも水と食料は総重量に対して占める割合が高いので、犬の分は犬が運ぶのが理想的。そういう意味でドッグ・パックはとても実用的な道具だと思います。
 日本では犬を飼う人たちが増えるにつれ、愛犬と楽しむスポーツやレジャーが盛んになっています。しかし犬を連れてバックパッキングをする人はまだそれほど多くありません。今、高齢者の「山歩き」がブームになっています。しかもその年齢層で犬を飼う人たちが増えていることを考えると、意外に犬連れバックパッキングは彼らが日本の火付け役になるかもしれませんね。





これは雑誌『DOG days』Vol. 15 (2003年4月発行)に掲載されたものです。

『犬物商品文化研究所』は1995年1月から雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)に5年間(60回)連載しました。
その後、雑誌『DOG DAYS』にパート2として2001年1月から連載がはじまり、現在も連載中です。