FURRY ANGEL,INC.,U.S.A. PRICE: $ 8.00 (S) / $ 12.00 (L)
  『ザ・イッチィ・スポット・スクラッチャー』。ファーリー・エンジェル社製、アメリカ。大きさ:12cm(S)/19cm(L)。素材:プラスチック。価格:8・00ドル(S)/12・00ドル(L)。これはマッサージ・セラピストによって考案された犬猫用の「孫の手」兼マッサージャー。硬質プラスチックの程良い重さとほねの形をモチーフにしたデザインは、その道のプロが考えただけあって、手に馴染んで使いやすそうです。「孫の手(ちなみに英語では"Back Scratcher")」のように、「痒い(=イッチィ)ところを掻く」という意味の商品名ですが、商品説明を読むと、マッサージに重点を置いていることがわかります。アメリカでは10年くらい前から「犬のマッサージ」が注目され始めましたが、日本でも最近になって徐々に関心が持たれるようになってきました。以前からトレーナーなどの間では知られていた、リンダ・テリントン女史が開発した動物たちのためのトレーニング&ヒーリング法「テンリントン・タッチ」というマッサージ法に、一般愛犬家たちも興味を持ち始め、日本でもおなじみのイギリスの獣医師マイケル・W・フォックス先生による『フォックス先生の犬マッサージ』(成星出版刊)など関連書籍がいくつも出版され、ペットサロンでは、トリミングやシャンプーだけでなく、マッサージを取り入れているところが続々と出てきています。そしてペットブームに火がつき始めたアジアの中で、なんとタイ、バンコクでは、今年の始め犬専用のタイ式マッサージ店『ドギー・バッグ』がオープン(ロイター通信)。開業したのはタニト・キッティカノクンさんという愛犬家兼起業家で、長年犬を飼っているうちに、犬たちもマッサージが好きだとに気が付いたことがきっかけだったようです。彼の店ではマッサージだけでなく、温泉ありアロマセラピーありと至れり尽くせり。
  ところで人間で考えると、一般的にマッサージは肩や腰のコリをほぐすためのものですね。いま都会では、「クイック・マッサージ」なる看板も多く目にします。疲れているときはたとえ10分間だけでもいいから揉んでもらいたい人が多いのでしょう。しかしマッサージまで分刻みとは、忙しい現代人の悲しさですね。余談ですが、その昔日本で一大指圧ブームがありました。きっかけは浪越徳治郎という名のすごい福耳のお爺さん。歴代首相や女優のマリリン・モンロー、ボクシングのモハメド・アリに指圧をして話題になり、「指圧の心は母心、押せば命の泉湧く。ワッハッハッハ〜」の名台詞で茶の間の人気者になりました。(その後、お年寄りにも関わらずバラエティ番組で絶叫マシンに乗り、「ジェット浪越」として第二次ブームがあった)昭和40年代の高度成長期。あの当時もマッサージが仕事ずくめの 毎日を送る忙しい日本人を惹きつけたのでしょう。「コリ」の歴史はヒトの祖先が二足歩行し始めたときにさかのぼると言われています。地球の重力に反して、地面から遠く離れた重い「頭」を支えている首、肩、腰が凝るのだそうです。だとすると、はたして四足動物の犬も「コリ」を感じるのでしょうか?二足動物であるヒトに比べると構造的要因が少ないのは確かですが、「コリ」にはそれ以外にもさまざまな身体的精神的要因があります。生活する環境とそのストレスによっては「コリ」を感じる犬たちがきっとたくさんいるはずです。散歩や食事をねだるだけではなく、そのうち「ちょっと肩凝ってるから揉んでくれよ」と飼い主に背中を向ける犬が出てくるかも。そしてそのうち「犬のためのクィック・マッサージ」や台湾式足裏マッサージならず「肉球マッサージ」の店がオープン!なんて日が来るかもしれません。
  「癒しの時代」と言われている現代、数え切れないほどの「癒しグッズ」が売られています。今回の商品のようなマッサージ器に似たものは、人間用ではイルカの形のものや、犬の形のものなどよく見かけます。自分自身でマッサージする場合は、それらも便利かもしれませんが、他の人や愛犬にしてあげるには、手でマッサージするのが一番効果があると私は思います。前記のフォックス先生の本の中でも、ただ犬の体に手を当て、息を吸いながら手から悪いものを吸い上げ、息を吐きながら良いエネルギーを吹き込むというマッサージ法が書いてありました。フォックス先生は、このマッサージで必要なのは犬への愛情と想像力だと言っています。「治療」のことを「手当」と言いますが、手に癒しの力があることは昔からわかっていたことなのでしょう。犬との生活では、犬に優しく手で触れることはとても大切ですよね。コミュニケーションであり、健康チェックであり、マッサージでもある。そして何より触っていて気持ちいい!犬を飼っている「シアワセ」はこの触感にある、と思う人は私だけではないはずです。それは決してぬいぐるみや「アイボ」では味わえない感覚なのです。昨今のペットブームは「癒しの時代」のもうひとつの現象としてとらえられているようです。個々の飼い主が日々の生活で愛犬に癒されることは言うまでもありませんが、盲導犬、聴導犬、介護犬などは身体的サポートだけでなく、精神的サポートの要素が大きいと思います。そしてセラピー・ドッグとして病院や福祉施設を訪問するCAPP(Companion Animal Partnersship Program)などの活動も徐々に社会的に認知され、効果を上げています。このように私たちを癒してくれている犬たちにも、もちろん「癒し」が必要です。「癒しの時代」とはただ癒されることを望む時代だけでなく、他の人や犬たちを「癒す」時代であって欲しいと思います。





これは雑誌『DOG days』Vol. 11 (2002年1月発行)に掲載されたものです。

『犬物商品文化研究所』は1995年1月から雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)に5年間(60回)連載しました。
その後、雑誌『DOG DAYS』にパート2として2001年1月から連載がはじまり、現在も連載中です。