MECCANO S.N.,FRANCE. PRICE: 10.00 EUR

  『ユーキャンズ マグネティック ワールド "トビー"(ドッグ)』。メカノ社製、フランス。価格:10・00ユーロ。これはスティール缶でできた犬の人形です。
  この四角い一風変わった犬トビーは、スティール製のからだ(顔)にマグネット・パーツ(目、鼻と口、耳、尻尾)を付けて(「福笑い」のように)表情やポーズを作って楽しむおもちゃ、ユーキャンズ・シリーズの一つ。トビーの他に、カウボーイのサム、警官のテッド、工事現場で働くトム、男の子のジャック、泥棒のビル、牛のマギー、ブタのグロウビーの7人の仲間がいます。
  このおもちゃを開発したのはフランスのメカノ社。日本ではあまり知られていませんが、じつは組み立ておもちゃでは「レゴ」と並んで欧米では有名なメーカー。メカノ社の歴史は古く、今から100年以上も前、1901年にイギリスのフランク・ホーンビー氏によって、金属製部品の組立玩具『メカノ』が開発されました。それは、ナット、ボルト、平板、車輪、車軸、モーター、ギア、滑車等をスパナやドライバーを使って組み立てて、クレーンや機関車など、簡単なものから複雑なメカニズムを持った構造物まで作ることができるもので、後に世界中で一大ブームにまでなったそうです。今でも世界中に『メカノ』ファンやコレクターがたくさんいて(インターナショナル・ソサエティ・オブ・メカノマンという団体があり、定期刊行物まで発行している)、古いモノは何十万円もの値が付けらています。最近やっと日本でもこの組立玩具『メカノ』が正式販売されるようになり、100周年モデルの復刻版の『クレーン』(価格はなんと1万5千円!)を買っていくおじさんたちがかなりいるようです。このモデルはパーツだけでも643個、制作例も25種類もあり、大人でもその組み立てにはかなりの時間がかかるようです。ちなみにソニーの創業者、あの故井深大氏も小学校時代にメカノ社の組立玩具(一説には機関車)に出会い、夢中になったらしいのです。さすが世界のソニーを創った人、設計図片手に数多くの細かい部品と格闘しながら熱心に組み立てている井深少年が思い浮かぶようです。
  さてこのユーキャンズ・シリーズですが、「親子の絆」「親子の時間を大切に」といった家族のコミュニケーションをコンセプトに開発されました。子供たちの自由な発想と、それを育む親たちのサポート。そんなことをテーマにしたおもちゃ、最近はほんんどありません。そして感心してしまったのは、商品パッケージや説明書にあった遊び方。それぞれの仲間のパーツを入れ替えて新しいキャラクター(例えば、豚の鼻の犬とか、犬の警官など)を作ったり、それらのキャラクターでお話を創ったり、とにかく自由な発想の遊び方を紹介しているのです。以前私が見た日本の幼稚園の「お受験」の問題に、この耳はどの動物の耳なのかを答えさせる問題がありました。そういう問題に答えられることも確かに必要かもしれませんが、この商品を見ると、犬に牛の角をつけたり、ブタに犬の耳を付けて遊ぶことの大切さを感じてしまいます。子供のアイデアやイマジネーションという「オリジナリティ」をちゃんとリスペクトすること。そういう親の考え方は欧米の方が進んでいるのかもしれません。
  ところで少子化が進む日本ですが、今では小学生以下の子供よりペットの数の方が多くなったそうです。そしてペットの飼育率では、1位はアメリカ(59%)で、日本は1998年にとうとうこの商品を作ったフランス抜いて2位。今後は、親子関係同様に飼い主と愛犬の関わり方も進歩し、名実共にペット先進国の仲間入りをしたいものです。そのヒントはひょっとしたら「オリジナリティ」という言葉にあるのかもしれません。井深氏がソニーを世界企業に育てたのも、そのオリジナリティに他なりません。彼は育児に関する本をいくつか書かれていて、その中で語られてる育児の考え方はまさに愛犬との接し方にそのままいかせることがたくさん。例えば、「言葉が話せない赤ちゃんの全身で発しているメッセージをしっかりキャッチすること」とか「よい習慣のくり返しだけが、人間をつくる最大条件である」など、愛犬のしつけに悩む人には「目からウロコ」な語録が満載なのです。彼は育児に関して、ある本の中でこんなことを言っています。「子育てほど創造的で楽しい事業はない」犬と暮らす毎日が創造的で楽しいと感じる愛犬家が増えることが、日本が世界一のペット先進国に近づくことかもしれませんね。





これは雑誌『DOG days』Vol. 14 (2003年1月発行)に掲載されたものです。

『犬物商品文化研究所』は1995年1月から雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)に5年間(60回)連載しました。
その後、雑誌『DOG DAYS』にパート2として2001年1月から連載がはじまり、現在も連載中です。