Scientific Explorer Inc.,U.S.A. PRICE: $ 19.95
  『ファン・ウィズ・ユア・ドッグ - サイエンス・キット』。サイエンティフィック・エクスプローラー社製、アメリカ。価格:19・95ドル。これは「犬を科学する」学習玩具です。
  青空の下草原でこちらを向いてほほえんでいるゴールデン・レトリバーのイラストのパッケージの中には、犬が考えたり感じたりしていることを研究したり、犬の五感について調査をしたり、ご褒美のクッキー作ったりなど、犬と遊び、学び、ふれあうためのブックレット(小冊子)と道具(犬笛[聴覚]/赤セロハンのレンズの紙製フレームのメガネ[視覚]/棒状ジャーキー[嗅覚]/クッキー・ミックスと骨型クッキーカッター/研究観察記録用ノート)が入っています。ブックレットには犬のことを知るためのさまざまな情報や実験・調査方法がクラシックなタッチのイラスト入りで書かれていて、どれも興味深いものばかり。それらのいくつかを紹介します。
  実験のひとつが「犬は水たまりの水をよく飲む」という通説(アメリカにはあるらしい)を検証するもの。2つのウォーターボウルに新鮮な水道水を同量入れ、片方にはティースプーン2杯分の雨水を加えて、犬が飲む水の減り方を毎日記録します。もしその通説が正しければ雨水を入れた方が多く減るはず。そしてその結果の理由を考えるのです(ブックレットに書かれた科学的な回答は、嗅覚に優れた犬はカルキ臭の少ない水を選んで飲むというもの)。聴覚調査では、いろいろな音を聞かせて犬の反応を調べます。犬が寝ていたり静かにしているときに、付属の犬笛の音(人間が聞こえない高周波に調整)やその他いろいろな音や人の声を聞かせて、犬がどのように反応するかを観察したり、好きな音と嫌いな音を見つけだすのです。視覚調査では、付属の赤いメガネ(ブックレットでは「犬メガネ」と読んでいます)をかけて犬が見ている世界を体験します。想像できると思いますが、見える世界は赤一色。決して鮮明ではなく、しかもコントラストの少ない世界です。この調査のタイトルは「もし犬が車の運転をしたら・・・」。このように見える世界ではいつも赤信号でどこにも行くことができないでしょうと書かれているのです。メガネをかけたまま今度は右目と左目をそれぞれ交互に隠し、正面を見て片目で人間が見ることができる視界を体験します。そして犬は目の位置の関係で左右の視野は人間より広く、正面のが狭いということをイラストで解説しながら教えています。「リサイクリング・ドッグ」というゲーム(犬に不要になった紙をリサイクル箱に持って行かせて捨てさせる)では、犬のしつけを通して「リサイクル精神」まで教えています。その他には犬の祖先のオオカミの話、ヒトと犬の出逢いとその歴史の話、ボディ・ランゲージ、性格診断テストなど大人が読んでもためになることが載っています。
  この商品名「ファン・ウィズ・ユア・ドッグ (犬と楽しむ)」が示すように、「楽しむ」ことから入って、まず好奇心を刺激する。そしてその好奇心を持続させ自ら学ぶ気持ちにさせるという演出が、この商品はとても上手です。これは愛犬のしつけにも共通する点が多いかもしれませんね。また、「科学」をテーマにしていますが、動物学的な犬を教えるよりも、犬の感情や犬との関係・コミュニケーション、そして犬を実際に触れることでの発見(たとえば犬を撫でながら耳を触ってその柔らかい感触を知る)など、情緒的な要素の方が多いことに感心します。
  さてこのサイエンティフィック・エクスプローラー社は「子供と科学」をテーマに、たくさんの学習玩具を専門に作っている会社です。たとえばこの商品の他には、アマゾンのさまざまな植物の匂いのエッセンスを嗅いで、熱帯雨林の植物を学ぶ「スミソニアン・アドベンチャー・アマゾン・フレグランズ(匂いによるアマゾン探検)」、ヘリウム風船や凧にカメラをつけて空から撮影し、鳥瞰写真を撮る「エアリアル・カメラ(空中カメラ)」、小さな曼陀羅を色砂で作る「チベット・サンドアート・キット」など、タイトルを見ているだけでもワクワクするようなものがそろっています(ちなみに「獣医キット」やこの商品の猫版「ファン・ウィズ・ユア・キャット- サイエンス・キット」もある)。しかもどれもクオリティーが高く、視点がとてもおもしろい(いままで数多く商品が賞を受賞)。それもそのはず、これらの商品の開発にはカルフォルニア大学バークレイ校の研究所の本当の科学者が参加し、さらには教育者や一般の子供とその親たちが共同で企画をしているのです。
  さきほどのブックレットの最後にはこのようなことが書かれています。「犬の祖先はオオカミです。ですからあなたの犬も野生のオオカミと同じように考えます。あなたの犬はあなたの家族の一員として、共に眠り、食べ、遊んでいますか?家族のそれぞれがあるべきポジションにいて正しい関係を結んでいますか?そのことをいつも心の中で考え、あなたの犬だけでなくあなた自身のことも観察し続けるといいでしょう」。この深さ、とても子供のおもちゃとは思えませんね。





これは雑誌『DOG days』Vol. 13 (2002年10月発行)に掲載されたものです。

『犬物商品文化研究所』は1995年1月から雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)に5年間(60回)連載しました。
その後、雑誌『DOG DAYS』にパート2として2001年1月から連載がはじまり、現在も連載中です。