PRICE: Animal Ambulance 」 5.5 / Logo Mug 」 3.2 / Teatowel 」 2 / U.K.
  『スーベニールズ・オブ・バタシー・ドッグズ・ホーム』。イギリス。アニマル・アンビュランス(ミニカー):大きさ=3.3 cm×7 cm×4.5 cm/価格=5・5ポンド。ロゴ・マグカップ:大きさ=8 cm(直径)×9.5 cm(高さ)/価格=3・2ポンド。ロゴ・ティータオル:大きさ=49 cm×75.5 cm/価格=2ポンド。これらはイギリスの動物保護施設、バタシー・ドッグズ・ホームのお土産品です。
 このバタシー・ドッグズ・ホームは世界最古のアニマル・シェルターといわれ、その歴史は19世紀後半にさかのぼります。当時ロンドンでは多くの放浪犬や飢えた犬たちが社会問題となりました。そのためメアリー・ティールビーという一人の女性が、ロンドンの北のホロウェイというところに、1860年に10月2日に、犬たちの人道的保護を目的とした一時保護施設を設立したのが始まりでした。ティールビー女史の根本的な考え方は、保護した犬たちを決して処分せず、その犬たちの本来の飼い主や新たな飼い主との出会いの機会を作ることにありました。設立の4年後彼女は他界しましたが、この彼女の精神は引き継がれました。1871年には現在の施設名となったテムズ南岸の地区バタシーに移り、1883年からは猫の保護も行うようになりました。140年以上もの歴史の間には、2度の世界大戦など様々な社会的経済的困難に見舞われましたが、イギリス王室(ヴィクトリア女王、エリザベス女王2世など)や心ある人々の援助によって、施設の運営を続けていくことができました。やがてこの施設は社会的にも広く認められ、多くの寄付金が集まるようになりました。そのおかげで常勤する獣医やトレーナーなどの人材を確保することができ、動物たちや訪問者たちのための設備やシステムの充実が徐々に図られました。さらにはロンドン警察との協力体制も作られ、交番に犬を連れていくだけで保護ができるようになったのです。現在でも基本的に寄付金だけですべて運営されています。オリジナルグッズも販売され、その売り上げは寄付金として役立てられています。
 そのオリジナルグッズが今回の商品。バタシー・ドッグズ・ホーム内のショップで販売されていますがホームページ[http://www.dogshome.org]からも購入することができます。「アニマル・アンビュランス(ミニカー)」はロンドン市内の犬猫たちを保護するときに使われる専用車ですが、現在使用しているものではなく、戦前に使われていたものです。(現在の車のミニカーも販売されています)「ロゴ・マグカップ」と「ロゴ・ティータオル」には、垂れ耳の犬が座っている愛らしいロゴマークがプリントされています。ティータオルはお皿を拭くデッシュタオルといわれたものを原型らしく、紅茶を飲むときにティーポットやティーカップをのせたトレイの下に敷くものです。花柄、フルーツ柄、動物柄、また名所の地図、郷土料理の作り方や紅茶の入れ方などいろいろな柄があり、コレクターもいるそうです。(最近日本でも雑貨屋さんで手に入るようになりました)なんとも英国人のライフスタイルの匂いが漂う商品といえます。紹介したもの以外にも、文具や衣類などたくさんの商品があります。
 さて、現在のバタシー・ドッグズ・ホームですが、バタシーの施設以外に、ロンドン南東の郊外のケント地区(1999年9月オープン)とロンドン西の郊外オールド・ウィンザー地区(2001年5月オープン)にも施設ができ、これら3つの施設で年間約8000頭の犬と約1300匹の猫を保護しています。保護された当初はどの動物たちも少なからず身体や心の傷を負っています。しかしここで愛情を持ってケアされた犬たちの多くは、見違えるように生まれ変わるとの評判です。ここの犬たちの里親になるためには、念入りなスタッフによる面接を受けなければなりません。さらには自分が気に入った犬と施設内で時間を過ごし、相性をチェックしてもらいます。そして新しい飼い主には無料で譲渡されるのではなく、マイクロチップやワクチン、不妊・去勢手術などの医療経費、その他アフターケアサービスなどの諸経費の実費として、70ポンド(約1万2000円)の費用を負担します。この施設から新たに旅立った犬は「バタシー・ドッグ」と呼ばれています。そのほとんどが飼い主と普通の生活を送っているのですが、警察犬・聴導犬・介護犬などになった犬たちもいます。なかでもすごいのは、第一次世界大戦時に活躍したジャックという名のエアデールです。彼は自ら命を落としながらもたくさんのイギリス兵たちを救った伝説の軍用犬となり、英国戦争博物館でもその栄誉が讃えられています。彼もバタシー・ドッグでした。歴史あるバタシー出身のバタシー・ドッグを飼うことになった人たちは、皆プライドを持っています。1999年にはBBCによるバタシー・ドッグズ・ホームのテレビ番組も始まり、イギリスだけでなく海外の人たちにも知られるようになりました。(ケーブルTVやスカイパーフェクTVを利用すれば、日本でも「アニマル・プラネット」という動物番組専用チャンネルで見ることができます)
 このバタシー・ドッグズ・ホームで犬たちの世話をするスタッフも新しく飼い主となる人も、ひとつひとつの命を尊敬し、喜びを持って彼らと生活しています。「捨て犬」や「迷い犬」など弱い立場の動物を単に救済するのだけではなく、人と犬との幸福な関係にまで思いが行き届いている。なんともうらやましい程素敵です。このホームのことを知れば知るほど、近年少しはイギリスに追いついてきたかと思っていた日本の犬文化が、まだまだ行く先は長いことを痛感させられました。





これは雑誌『DOG days』Vol. 8 (2001年4月発行)に掲載されたものです。

『犬物商品文化研究所』は1995年1月から雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)に5年間(60回)連載しました。
その後、雑誌『DOG DAYS』にパート2として2001年1月から連載がはじまり、現在も連載中です。