SIGMA CHEMICAL CO., U.S.A.

 『シュード・コープス・セント』アメリカ、シグマ・ケミカル社製。これは死体発見訓練用の疑似人死体臭薬品(シュード(psuedo)は疑似、コープス(corpse)は死体、セント(scent)は臭いという意味)です。かつての探査犬の臭覚訓練には現物(麻薬など)や化学薬品を使用していたのですが、長期に使用した場合人体や犬に悪影響を及ぼすため、シグマ・ケミカル社がこの「シュード」という安全性の高い疑似臭薬品を開発しました。「シュード」ブランド製品としては、この死体発見訓練用の疑似人死体臭薬品のほかに、麻薬覚醒剤探査犬訓練用、災害遭難者発見訓練用、爆破物発見訓練用など、様々な商品があります。さてシュード・コープス・セントですが、写真のフォーミュレーション1は死後早期発見用で、フォーミュレーション2は死後長時間経過の人死体発見訓練用、さらにフォーミュレーション3が水難犠牲者発見訓練用と用途に合わせ細かく分かれています。もともとこの会社は研究用試薬を主に製造販売しているそうで、その実績と専門性を生かしたこの商品は、アメリカでたいへん高く評価されているようです。今まで紹介してきた商品とは違い?当研究所始まって以来のドキッとする研究対象ですが、この商品には社会的な意味をとても感じるのです。注目したい点はアメリカの製薬会社の技術力ではなく、この商品が生まれる社会性です。たぶん今の日本の製薬会社が本気で取り組めば、技術的には同じ様なものを開発できるでしょう。商品として世に出すためには、社会にその商品を受け入れられる環境や人々の意識もしくは必要性、さらには社会的意味がなければなりません。日本とアメリカの差がここにあるような気がします。そしてシュードのような商品を目の当たりにすると、働く犬たちに対するアメリカの社会背景や環境、そして犬たちのシチズンシップに対するの社会の評価が確固としているのをつくづく感じてしまうのです。昨年1月の阪神大震災の時には、海外からやってきた災害救助犬たちの活躍がずいぶん紹介され、日本国内でも災害救助犬の社会的認知とその必要性を訴える声が高まり、災害救助犬を育成する動きが活発になってきているます。本当にすばらしいことです。人間は、犬たちの能力をもっと信頼し、もっと助けてもらえばいいと、胸を張って認めてもいいのではないでしょうか。
雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)1996年5月号掲載